KEIO 慶應義塾大学理工学部/大学院理工学研究科開放環境科学専攻
Department of System Design, Faculty of Science and Technology Keio University
Graduate School of Science and Technology,Science for Open Environmental Systems
岸本達也研究室
Architectural and Urban Space Planning and Design Laboratory


Space Syntaxによる空間構成の研究

Space Syntaxは、空間の文法ともいえるものです。言語の文法は、言葉と言葉の配列規則ですが、Space Syntaxは、空間と空間の配列規則の研究です。建築・都市空間を、空間と空間が複雑に関係して構成されたシステムとして理解し、数理的にはネットワーク(グラフ)構造として表現します。組み合わせには、一定の規則性があって、それが建築・都市空間を、それぞれ固有かつ特徴的なものとしていきます。
 建築空間は、部屋と部屋、部屋と廊下、建物の内部と外部の空間が連結した複雑なシステムです。都市は、様々なレベルの道、広場、空地、緑地、住宅地などから構成されています。人々が移動したり、滞在したりすることができる空間は、相互に連結していて、その連結の仕方によって、人の行動は制約を受けるので、そこに、人々の活動パターンが生まれてきます。人が集まる場所ができたり、人が集まらない場所ができたり、人と人が偶然に出会う場所ができたりします。Space Syntaxは、そのような複雑な空間の特性を分析して明らかにし、活動との因果関係を示すことによって、より良い空間構成を道軸ことができます。

空間構成 ⇒ 人間の移動/滞在 ⇒ 魅力ある空間/廃れる空間  :||
空間構成とは、地形やその土地の条件、人々によって構築される空間構造です。
空間構造によって人々の移動や滞在パターンが生じ、そこからにぎわう空間、魅力ある空間、廃れる空間が生じ、そこから新たな空間構成を変化させる力が生まれてくると考えます。

Space Syntaxには、様々な分析モデルがあります。部屋のようなな凸の空間のまとまりで記述するConvexMap、道路のような細長く見通しのきく空間のまとまり(軸線)によって記述するAxial Map、バラバラな線分(Segment)の集まりとして記述するSegmentMap、さらに、賽の目上に分割したピクセル、あるいはボクセルの集合として記述するモデルもあります。建築の室内空間の分析にはConvexMap、都市空間にはSegmentMapを用いることが多いですが、それぞれの分析の目的に応じて、適したモデルを用いて分析を行います。
Space SYntax
は、建築・都市の空間を複雑・巨大なネットワーク構造の空間としてモデル化します。建築・都市空間の「複雑ネットワーク」です。人間は、複雑ネットワークの中で生活して、移動をします。学校や職場のように目的地へ向かって移動することもあれば、目的もなく、ぶらぶらと移動することもあります。生き物としての行動では、ぶらぶらとした移動にこそ、本質的な意味があると言われています。そして、そのぶらぶらとした移動こそ、複雑ネットワークの特徴に大きく影響を受けることが分かっています。
研究室では、そのネットワークの解析と、人間の移動行動の解析を通して、よりよい空間構成のみつけるための研究を行っています。対象とする空間は、住宅、学校、駅、繁華街、ショッピングセンターなどの賑わい空間、美術館、博物館、図書館、なども様々です。

EBDEvidence Based Designの研究

建築や都市のデザインは、科学的な根拠に基づいておこなわれることは、実は、とても少ない、という現実があります。これは、過去の歴史を見れば明らかです。20世紀のモダニズム・機能主義の時代には、建築は大規模化、巨大化し、居住、業務、リクレーション、交通の機能は、それぞれ分離することが良いとされ、そのように都市はデザインされてきました。しかし、それは、ある指導的な立場の少数の人々(たとえば、ル・コルビュジェなど)が理想像を描き、人々はそれに向かって、それを目標としてデザインがなされてきました。科学的な根拠(エビデンス)にも基づいて、最善なデザインがなされてきたわけではありません。1960年代には、ジェーン・ジェーコブスがアメリカ大都市の死と生において、小さなブロック、複数の種類の混在が望ましいと述べ、今度は、逆に小さいほうが良い、混ざっているほうが良い、という反動が生まれてきました。しかし、ジェーンジェーコブスのいう小さいブロックも、本当に良いのかどうか、わかりません。ジェーン・ジェーコブスは、科学的な根拠(エビデンス)に基づいて、主張しているのではなく、個人的な経験と体験、想定されるメカニズムに基づく推論、によって主張しているにすぎません。そのため、現実のデザインの事例を収集して、本当はどのようになっていればよいのか、検証されたエビデンスに基づいて、明らかする研究が必要となっています。

医学の分野では、EBM(Evidence-Bsed Medicine)が進んでいますが、医学の分野でも同様のことが問題になっていて、EBMによって医学の常識が覆されるようなことがおこっています。例えば、1990年代には腰痛の原因は、椎間板ヘルニアであるといわれていましたが、統計的に調べてみると、腰痛のない健康な人にも椎間板ヘルニアは見られることから、椎間板ヘルヒアは腰痛の主たる原因ではないことが明らかになっています。これは、統計的な調査研究によって、これまでの学説が覆された有名な事例です。それまでの医学は、生体内のメカニズムを解明する病理学、生理学的アプローチが主流でしたが、メカニズムの解明では、間違った推論をしてしまう、ということの分かりやすい例といえます。EBDは、メカニズムを解明しようとするアプローチではなく、膨大な数の事例を収集して、疫学的なアプローチで、関連性の有無を見出していくという方法を取ります。
物理的な環境、建築空間、都市空間のデザインと、生活行動、犯罪や交通事故の発生、健康、幸福度などとの関連性を明らかにする研究を進めています。



都市景観、建築形態の研究

目で見える空間デザインの研究です。最適配置、Space Syntax、EBD、いずれも目に見ることはできない配置や、空間のつながり方や構成を対象としていますが、目で見えるデザインは、とても大切です。建築や都市の形態の「魅力」についての研究です。魅力的であることは、そのものの価値を高めることにつながります。愛着を生み、人に大切にされ、長く利用されることで、長寿命になります。逆に魅力がなく、嫌悪されるデザインであると、人の反感を生み、落書きをされたり、破壊行為を受けることさえあります。魅力的であることは、単に美しいだけではなく、周囲と調和していること、明るく、快適であること、適度な開放感と閉鎖感があること、言い換えれば、活動的であり落着きもあるような、人間に必要な両方の性質を持つこと、単調ではなく、一定の多様性と複雑さがあること、個性があり、独自性があること、など様々なことが求められます。
多様性と統一性、独自性、ゆらぎ、フラクタル、囲われ方、快適性など、テーマは様々です。研究室では、VRを用いて、複数のデザイン案を作成し、比較体験をする実験や、コンピュータを用いたデザイナ案の自動生成などにより、より価値を高めるためのデザインのメカニズムを解明する研究を行っています。対象は、街路空間、大学キャンパス、建築ファサードなど、様々です。

最適配置の研究

施設の最適配置の研究は、岸本研究室の最も古くから続く研究です。Mini-Sum問題、Mini-Max問題などの基本的な施設配置問題から、容量制約のある施設配置問題、ハブ配置問題、公共施設の配置問題、商業施設の配置問題、避難施設の最適配置問題など、様々な施設配置モデルを提案し、最適配置を示すとともに、そこから導かれる最適な形を求めていきます。
研究室では、生命・生物学的なアプローチにより、環境に適応するように最適解を求める方法を用いています。ニューラルネットや、GAなど、シミュレーションしながらの確率的なアプローチで、最適な形態を求めていく手法です。
住宅、公共施設、避難施設、商業施設、コンビニ、図書館、駅、バス停、空港、集合住宅の建物などなど、対象は様々です。どのような施設でも対象となります。住宅スケールの家具の配置から、どこに道を引くか、橋を架けるか、といった国土レベルのこともテーマになります。最適配置は、どこに、どのようなモノを作ったらよいのか、という、デザインの最も基本的なテーマです。

その他の研究課題

岸本研究室では、建築デザイン、都市デザインにかかわる幅広い研究を行っています。
  • 都市空間の解析
  • 用途混合、
  • 街路網
  • オープンスペース、
  • 建物の更新、
  • ミニ戸建て、空き家
  • サステナブル建築デザイン
  • ファシリティマネジメント
  • インテリアデザイン
  • などなど
建築・都市の空間にかかわる研究でしたら、新しい課題に挑戦することができます。